普段から無線機を使用している方は、混信や不感地帯で悩まされたり、もっとチャンネルを増やしたい、免許局でも中継器を利用したいと思われたことはないでしょうか?これらの需要を受けて、総務省より業務用無線機(トランシーバー、インカム※)の高度化、増波が発表されました。しかし周波数帯のことや互換性など、内容が専門的で難しく感じている方も多いでしょう。

そこで本記事では、簡易業務用無線機の「高度化」と「増波」について詳しく解説します。高度化と増波のメリット・デメリットだけでなく、増えたチャンネル数の比較、免許局と登録局の違いについても触れます。ぜひ今後の通信環境の構築にお役立てください。

※無線機、トランシーバー、インカムの呼び方についてはこちら

特設ページはこちら

無線機の高度化と増波とは

無線機の高度化と増波とは、無線機の周波数を新たに割り当て、利用可能なチャンネル数を増やすという総務省と各メーカーの対応のことです。

電波は有限で希少な資源であり、公共のものです。電波法のもと限りある資源を分け合い、有効利用されています。ラジオやBluetoothなど、電波を利用するものはたくさんありますが、無線機もその一つです。

電波は周波数帯で区分けされており、デジタル簡易無線機は電波法改正により2008 年に新しく周波数が割り当てられ誕生しました。それから15年以上が経過し、デジタル簡易無線機の利用拡大、急激な需要増加によって周波数帯つまりチャンネル数が不足してきています。

この問題を解決するために周波数帯を割り当てる=チャンネル数を増やす増波」対応されることが総務省の発表により決定しました。これが無線機の「高度化」です。

増波するチャンネル数は?

デジタル簡易無線機は免許局(450MHz帯)と登録局(350MHz帯)に分かれます。
免許局と登録局についてはこちら

それぞれ以下のようにチャンネルが増えます。

 周波数元のチャンネル数増波数合計
免許局467MHz65ch10ch75ch
免許局
(中継器)
465MHz
468MHz
10ch
(新しく割当て)
10ch
登録局351MHz30ch52ch82ch
登録局
(上空利用)
351MHz5ch10ch15ch

免許局は中継利用を合わせて85ch、登録局は上空利用を合わせると97chです。

免許局の中継機利用が解禁

さらに不感地帯を解消するべく、新しく中継器の周波数が割り当てられることになりました。不感地帯とは無線機の電波が届かず通信ができないエリアのこと。これによって通信エリアの拡大が期待できます。

これまで弊社でご案内している短距離の無線機(特定小電力トランシーバー)は中継器を使うことができましたが、中距離、長距離、通信の無線機(簡易業務無線機)の中継器利用は認められていませんでした。

簡易業務用無線機で通信エリアを拡大するには、外部アンテナで受送信が良好な場所までアンテナを延長する方式や、無線機のマイクを延長するリモートコントロール(通称リモコン)、またはインターネット回線を介して通信距離を拡張する「VE-PG4」や「IC-DU6505BN」を利用していました。

しかし、設置工事費用が高額になることや、綿密な電波測定など導入するにも時間がかかり、通信エリアを拡大することは容易ではありませんでした。

この高度化により、中継器の使用が解禁されると容易に通信エリアを拡大することができるので、これは革新的な変更と言えるでしょう。

無線機の高度化と増波のメリット

無線機の高度化と増波によってチャンネルが増えると、どのようなメリットがあるのか解説します。

混信の緩和

高度化と増波によってチャンネル数が増えると、「電波の渋滞」である混信の緩和が期待できます。チャンネル数が少ない状態で多くのユーザーが無線機を利用すると、混信が起きやすく快適な通信ができない可能性があるためです。

混信とは同じ周波数(≒チャンネル)や近い周波数(≒チャンネル)で送受信をすると電波が入り交じって正常な通信ができなくなることです。

大規模なイベント会場や、年越しで連絡が集中するとき、携帯電話でも通信ができない状態になりますよね。電波が入り交じるようなことは起きませんが、「電波の渋滞」が起きている点が似ています。

不感地帯の解消

無線機の高度化と増波のメリットとして不感地帯の解消も挙げられます。不感地帯とは前述の通り、無線機の電波が届かず通信できないエリアのこと。中継器を利用して、通信エリアを拡大できるのは大きなポイントです。

これまで、無線機を導入したものの一定のエリアで通信ができないことはありませんでしたか?通信距離だけでなく、建物の構造や材質によっても通信しづらくなるケースがあります。もし不感地帯があると感じている方は、今後中継器の利用も検討されるとよいでしょう。

利用方法や設置方法に不安や疑問がある方は、ジャパンエニックスまでぜひお問い合わせください。お客様の通信環境に合わせてベストなご提案をさせていただきます。

無線機の高度化と増波のデメリット

無線機の高度化と増波のデメリットはほとんど無いと言えますが、強いて言うならば、旧モデルと増波対応モデルとの見分けがつかないことでしょう。各メーカーの対応について以下に記載しますが、新しく周波数が割り当てられた増波対応モデルはこれまでの旧モデルと見た目がまったく同じです。

既に無線機を使っている方が増波対応モデルを増設(無線機を買い足すこと)する場合、旧モデルと増波対応モデルの見分けがつかない状態になります。また、旧モデルと増波対応モデルの間で、新チャンネルでの通信はできないことも注意しましょう。ただし、旧チャンネルでの互換性はありますのでご安心ください。

旧モデルと増波対応モデルを確認する唯一の方法は、技術適合番号を確認する方法です。技術適合番号とは、電波法で定められている技術基準に適合している無線機であることを証明するための番号であり、その証となる技適マークと合わせて無線機に貼付する必要があります。技術適合番号は固有番号で、技適マークと一緒に表示されておりますので、旧モデルと増波対応モデルではこの番号が異なります。

見分けが付かない問題は、弊社のLPS(レーザープリントサービス)やカスタムシールサービスで対策できます。レーザープリントは無線機に直接刻印するサービス、カスタムシールはオリジナルの剝がれにくい専用のシールをお作りするサービスです。(詳しくはこちら

高度化と増波のスケジュール

無線機の高度化と増波は、2023年10月より始まっています。まずは登録局から各メーカーが増波対応モデルを販売します。既にお持ちの無線機は旧チャンネルのままのため、特に何かする必要はありません。

高度化のスケジュールと各メーカーの対応は現状以下の通りです。

免/登メーカー生産予定
免許局KENWOOD2024年春予定
ICOM
八重洲無線
ALINCO
MOTOROLA
STANDARD
登録局KENWOOD2023年10月~
ICOM2023年10月~
八重洲無線2023年10月~
ALINCO2023年10月~
MOTOROLA
STANDARD

チャンネル数の多い登録局の方が混信しにくい?

免許局は65chから85chに、登録局は35chから97chに増え、これまでと変わって登録局の方がチャンネルが多い状態になりました。一見、登録局の方が免許局と比較して混信しにくいのかと思われるかもしれません。以下に詳細を解説します。

登録局のチャンネル数は実質82ch

登録局の使用できるチャンネルは実質82chです。登録局の上空15chは使用する場所が上空(スカイスポーツ等)専用で出力も異なるため、普段は利用できないと考えておきましょう。

混信のしやすさはチャンネル数だけで決まらない

混信のしやすさは一見チャンネル数の多さで決まるかと思われるかもしれませんが、そうとは言い切れません。まずキャリアセンスとユーザーコードについて理解しておく必要があるでしょう。

キャリアセンスがあると通信できない可能性がある

キャリアセンスとは無線機の混信を防ぐための機能で、無線機を送信しようとしたときに他の無線機が同じチャンネルで通信をしていた場合、一時的に通信を中断する機能です。登録局のみ搭載されています。

無線機の増波と高度化によって、登録局のチャンネル数は増えました。しかしキャリアセンスの機能がある以上、周囲に登録局無線機の使用者が多くチャンネルが被った場合は、通信できなくなる可能性があります。周りにレジャー施設や大きな会場など無いか利用環境を考慮した上で選ぶのがよいでしょう。

その分、免許局はキャリアセンスが搭載されていないほか、法人用に特化しており、レジャー用途やアマチュア無線のように趣味で使用することができないため、使用される分母が少ないことから混信のリスクを軽減できます。法人名義での購入が前提であり、簡単には購入できない商品のため、盗聴などのリスクを減らし、秘話性にも優れているのが魅力です。

ユーザーコードの設定で混信しにくくできる

また、登録局でも設定できますが、各チャンネルにユーザーコードを設定することができます。このユーザーコードは511通りあるため、実質75ch×511通りのチャンネルを設定するのとほぼ同じ状況にでき、弊社のような無線機販売代理店がこのユーザーコードの設定を行い出荷しています。このユーザーコードの設定も免許局の混信しにくいポイントです。

以上のことから、チャンネル数だけで免許局と登録局の選択をしないことをおススメします。弊社ではお客様に合った無線機をご提案いたしますので、お気軽にお問い合わせくださいませ。

旧モデルと増波対応モデルの型番一覧表

メーカー免許局/登録局旧モデル増波対応モデル距離
KENWOOD登録局TCP-D561TCP-D561(変更なし)長距離
TCP-D561BTCP-D561B(変更なし)長距離
TCP-D561BTTCP-D561BT(変更なし)長距離
TCP-D561BTBTCP-D561BTB(変更なし)長距離
TPZ-D563TPZ-D563E長距離
TPZ-D563BTTPZ-D563BTE長距離
TMZ-D504TMZ-D504E長距離
ICOM登録局IC-DPR4IC-DPR4 PLUS長距離
IC-DPR4LITEIC-DPR4LITE PLUS中距離
IC-DPR4CIC-DPR4C PLUS中距離
IC-DPR4CLITEIC-DPR4CLITE PLUS中距離
IC-D70IC-D70 PLUS長距離
IC-D70BTIC-D70BT PLUS長距離
IC-D70LITEIC-D70LITE PLUS長距離
IC-D70SBT PLUS長距離
IC-DPR7SIC-DPR7S PLUS長距離
IC-DPR7SBTIC-DPR7SBT PLUS長距離
IC-D6005IC-D6005 PLUS長距離
IC-D6005NIC-D6005N PLUS長距離
IC-DPR100IC-DPR100 PLUS長距離
八重洲無線登録局SR510SR510(変更なし)長距離
SR741SR741(変更なし)長距離
SR740SR740(変更なし)長距離
SR730SR730(変更なし)長距離
SRM320SRM320(変更なし)長距離
FTM320RFTM320R(変更なし)長距離
ALINCO登録局DJ-DPS71DJ-DPS71E長距離
DJ-DPS70DJ-DPS70E長距離
DJ-DPX2DJ-DPX2E長距離
DJ-DPM61DJ-DPM61E長距離
DJ-DPM60DJ-DPM60E長距離
MOTOROLA登録局MiT3000未発売長距離
GDR4000未発売長距離
STANDARD登録局VXD1未発売中距離
VXD1S未発売中距離
VXD30未発売長距離
VXD450R未発売長距離
VX-D2901U未発売長距離

※免許局及び中継器は随時公開予定です

まとめ

業務用無線機の高度化と増波について解説しました。今後チャンネル数が増え、免許局は中継器を利用できるようになります。無線機を使われる方にとって、これは革新的な変更です。高度化・増波に伴い無線機を増設(買い足し)される方や中継器を利用される方はぜひジャパンエニックスへご相談ください。最適な通信環境をご提案いたします。