無線機にはいくつかの種類があり、それぞれ性能や無線の飛距離、電波の性質などが異なります。適した用途にも違いがあるため、無線を導入する前にはその違いについて把握しておくとよいでしょう。

本記事では、無線機を利用してみたい初心者の方に向けて、主な無線機の種類と特徴について解説します。

無線機の種類①:業務用無線機

業務用に使われる無線機のことを業務用無線機といいます。アマチュア業務と放送業務以外の無線のすべてを含んでおり、警察無線や消防無線、公共性の高い公私企業の使う一般無線、その他の企業の使う簡易無線など幅広く該当します。

特徴

業務用無線機は、最大で10~20kmもの広域にわたる通信が可能です。警察無線や消防無線、災害無線などの公共に資する用途に用いられるほか、タクシー無線や一般業務無線、簡易無線といった事業者向けとしても利用されています。

事業者用の業務用無線の場合は、公共性の高い企業に割り当てられた一般業務無線と、そのほかの事業者に割り当てられた簡易無線の2種類に分類されています。

また電波の特徴として、多様な業務に対応可能な長い通信距離と、優れた秘匿性を持っていることから、公共サービス用や放送用の無線としても使用されています。ただし利用にあたっては免許や登録の手続きが必要になるため、書類や手続きの管理をしっかりとする必要があります。

価格

ここでは業務用無線機のなかでも用途が広く、一般的に購入機会の多い簡易無線機の価格について紹介します。簡易無線機の平均的な価格は下記のとおりです。これは平均的な機能を持った無線機の場合で、高機能な製品になるほど価格は上昇します。

• 購入:約50,000円~
• レンタル:1週間 約2,000円~(簡易業務用無線機に限る)

使用用途

業務用無線機は警察や消防、防災無線などのほかに、鉄道、船舶、航空無線などが含まれます。社会的なインフラで使用する無線は、業務用無線のなかで個別の無線として区別されており、個別の周波数が確保されています。

また、一般の企業が使用する無線としては、タクシー無線のほか、一般業務無線や簡易無線が区分として用意されており条件に応じて割り振られます。

無線機の種類②:IP無線機

IP無線機とは、携帯電話会社のデータ回線を借りて通信する無線機のことです。

IPとは、インターネット・プロトコル(Internet Protocol)を略した呼び方で、従来の無線のように直接的な電波ではなく、音声をいったんパケットデータに変換したうえで通信します。携帯電話の通信網を利用するため、距離に関係なく一定の品質で通信できるのが特徴です。

特徴

IP無線機は従来の無線機とは異なり、直接無線の電波で通信しません。携帯会社のデータ通信網を使って通信するため、音声データをいったんパケットデータに変換したうえで、データ通信網を経由して相手の無線機へと送信します。

IP無線機では携帯キャリアのデータ通信網を使うため、無線機同士の物理的な距離に関係なく通信が可能です。ほかの種類の無線機の場合、最長でも数十kmの範囲での通信がほとんどですが、IP無線機ではそれ以上の距離でも無線で通信ができます。

これは携帯キャリアの通信網を使うためで、携帯キャリアのエリアの範囲内であれば、距離を気にすることなくどこにいても通信が可能です。スマホや携帯電話とほぼ同じ感覚で通信できるため、非常に利便性が高いのが特徴です。

また無線のための免許や登録、資格が必要ないのもIP無線機の特徴のひとつです。難しい手続きなしで、誰でも手軽に利用できるのは大きなメリットといえるでしょう。また無線局用の大がかりな機器も必要ないので、初期投資を抑えながら利用できるのも利点のひとつです。

ただしIP無線機に固有のデメリットとして、携帯キャリアのエリア外では通信できないこと、また利用にあたっては契約する携帯会社に月額料金を支払わなくてはならないという点が挙げられます。

価格

標準的なIP無線機の価格は下記のとおりです。

• 購入:約70,000円~
• レンタル:1週間 約3,000円~

また購入してから利用にあたっては上記以外に携帯電話会社に支払う月額利用料がかかる点と、利用を開始する際に初期費用の支払いが発生する点には注意が必要です。初期費用は3,300円程度、月額利用料は平均して月2,000円程度を想定しておけばよいでしょう。(レンタル利用除く)

使用用途

IP無線機は従来の無線機と比べて、圧倒的に通信距離が広く使いやすいのが魅力です。スポーツイベントやコンサートなどのイベント会場、また工事現場など多くの場所で使われています。

また機種にもよりますが、一般的にIP無線機は従来の無線機と比べて音質がよいため、音声が聞き取りやすいという特徴があります。そのため、騒がしく無線機の音が聞き取りづらいような現場での利用にも向いています。

無線機の種類③:特定小電力トランシーバー

特定小電力トランシーバーは電波の送信距離が極めて短く、狭い範囲での通信が可能です。しかし、使用するための免許や資格が不要なことから、誰でも手軽に利用できるというメリットがあります。

特徴

特定小電力トランシーバーは電波の出力が小さいことから遠距離間での通信ができず、用途は近距離での無線通信に限定されています。

通信距離は最大で200m前後、他の無線と比べて通信距離がかなり短いのが特徴です。これは遮へい物のない平地での通信距離で、ビル街などでは100m前後にまで距離が下がることもあります。

このように特定小電力トランシーバーは遮へい物に弱く、電波を遮るものが多いと通信性能が著しく下がります。使用環境に不安があれば、事前に実機でチェックするなどの対応が不可欠です。

一方で、特定小電力トランシーバーは安価で、本体が小型で取り回しがよく単三電池を入れればすぐに使用できるのがメリットです。(内蔵バッテリー式を除く)

また特定小電力トランシーバーは、利用のための免許や登録が必要ありません。ほかの無線機のように、使用のために資格や免許の申請を行う必要がなく、簡単にレンタルで利用できるのも利点のひとつです。

価格

特定小電力トランシーバーの平均的な価格は下記のとおりです。

• 購入:約10,000円~
• レンタル:1週間 約1,500円~

使用用途

特定小電力トランシーバーは非常に使いやすいことから、さまざまな場面で幅広く使われています。スキーやアウトドアなどのレジャーでの利用から小規模イベントまで、多種多様なニーズに対応が可能です。

ただし特定小電力トランシーバーは仕様から混信しやすいため、秘匿性が担保できません。通話内容を聞かれたくないような用途では使わないようにしましょう。

無線機の種類④:デジタル簡易無線機

デジタル簡易無線機は通信距離が1~5kmと比較的広く、また利用のしやすさからも人気の無線機です。とくに開設のしやすさが支持されており、さまざまな用途で広く使用されています。

特徴

デジタル簡易無線機の特徴として挙げられるのが、通信距離の長さと利用の始めやすさです。通信距離は平均で1~5km程度で、開けた場所であれば10km前後は通信が可能です。また遮へい物にも強く、建物が密集している環境でもつながりやすいという特徴があります。

ご利用するにあたり申請が必要ですが、それを用途や目的によって2種類から選べて、これにより登録手続きの負担を抑えながら使用を始められます。免許局は、法人や団体が業務で使用することを想定して設置されたもので、手続きが細かく使用の対象にも制限があります。

一方の登録局は幅広い用途での通信を、簡単な手続きで済ませられるように新たに設置されたものです。手続きも無線局と比べると簡単で、より手軽にデジタル簡易無線機の利用を始められます。

またデジタル簡易無線機は、音質のよさと秘匿性の高さも特徴です。デジタル通信方式では、従来のアナログ通信方式と比べて音質がかなりクリアになっており、非常に聞き取りやすいというメリットがあります。

アナログ通信方式の簡易無線は2024年11月末に廃止されることになっているため、新規で簡易無線機を利用する場合は、デジタル簡易無線機を選択するとよいでしょう。

価格

デジタル簡易無線機の価格は下記のとおりです。

購入:約50,000円~
レンタル:1週間 約2,000円~

使用用途

デジタル簡易無線機は利用開始のハードルが低いため人気が高く、幅広い用途で使われています。デジタル簡易無線を免許局で申請した場合でも、無線従事者は必置とされておらず登録局で登録する場合は免許も必要ありません。

登録申請するだけで開局が可能なため、非常に利用を始めやすい無線機といえるでしょう。実際にイベント会場やホテル、建設現場などのほか、レジャー施設や大規模倉庫など、多種多様な業種で使用されています。

無線機の種類⑤:デジタルMCA無線機

デジタルMCA無線機は、広域での通信に対応した無線機です。中継局を介して通信するのが特徴で、日本全国といった超広域での通信が可能です。

特徴

デジタルMCA無線の大きな特徴は、無線機同士で直接通信ではなく、間に中継局を挟み通信することです。全国の高層ビルや山頂などに設置されている中継機によって、半径数十kmを超えた超広域での無線通信が可能となっています。

また、通信チャンネルの割り当ても自動化されており、長時間の通信は強制終了させるなど、混雑を回避するしくみが組み込まれているのも特徴です。

このように通信品質の維持に極めて強く、365日24時間体制で移動無線センターによって管理されていることから、災害に強い無線として自治体で導入されるケースも増えています。

また導入コストが低いのも、デジタルMCA無線機の特徴です。すでに設置されている設備を使用するため、自前で用意する機器類が最小限ですみます。中継局などの設備の使用については、月額利用料を払って利用します。ほかの無線機のように購入費がかからないため、安価に広域の通信を利用開始できます。

価格

デジタルMCA無線機は一般の利用者向けに販売されているものではないため、店頭での販売は基本的にされていません。利用はリースが中心です。また利用にあたっては中継局の利用料金も発生します。

購入(車載等据置タイプ):約130,000円~
購入(携帯タイプ):約180,000~250,000円

使用用途

非常に広域での通信が可能なことから、物流業界などで広く使用されています。また災害に強いことから、自治体や官公庁などの公的な機関での導入実績も増えています。

まとめ

本記事では、無線機のなかでも主要な5種類について、特徴や用途を解説しました。無線機は種類ごとに性能や得意分野が大きく異なるため、使用目的に合った無線機を選ぶことが重要です。
用途と合わせながら検討していただければと思います。