トランシーバーを屋外で使用する場合、防水・防塵性能の高さは非常に重要です。
突然の雨に耐えられる性能が必要なことに加えて、工事現場や荒地などで使用する場合は、粉塵にも耐えなければなりません。

トランシーバーは使用する場面で十分に活用できるのか、機能としてどのような防水・粉塵性能を備えているのか示す必要があります。

これらを基準化したものが「保護等級」です。

保護等級は過酷な環境下でどこまで耐えられるのかを、基準となる動作テストをもとに示しています。水濡れの可能性や粉塵の多い環境が見込まれる場合は、環境に耐えうるものかどうか保護等級の表示をもとに判断できます。

しかし防水・防塵性能や保護等級は使われる言葉も専門的で、ややわかりづらく感じる人も多いはずです。

そこで本記事では、トランシーバーの防水・防塵性能と保護等級の関係について詳しく解説します。専門用語を噛み砕いてわかりやすく解説するとともに、防水トランシーバーの機種選びでのポイントについても詳しく解説します。

トランシーバーの防水・防塵性能は保護等級で変わる

保護等級とは、防水・防塵性能を示す国際規格です。IP(International Protection)コードと呼ばれる基準をもとに分類されており、この等級によって防水・防塵性能が変わります。

このIPコードは、2003年に国際電気標準会議(IEC)によって定められたもので、電気製品の防水・防塵性能を表す規格です。トランシーバーに限定されておらず、電子機器一般に広く使われている規格です。

保護等級の見方

保護等級は「IP◯◯」という表記で示されます。◯◯には数値が入り、数字の大小で性能を示しています。たとえば「IP68」というように、テストの結果に応じて2桁の数値が並びます。

IPに続く前1桁の数字は防塵性能を、後ろの1桁は防水性能を示しています。なお防塵性能の最高値は6、防水性能の最高値は8です。つまり例として挙げているIP68は、最高の防塵・防水性能を持っていることを表しています。

このIPコードの数値は特定の基準にもとづいて付与されるもので、メーカー各社ではテストの実施などによって性能の確認をしています。

またこのIPコードは防水・防塵性能のいずれかのみを示すために表示することもできます。

たとえば、家電製品の防水性能を示す表記として「IPX◯」と記載されているものを見かけることがありますが、この文字列のなかの「X」は数値を記載できないという意味で、防塵性能をうたっていないことを示しています。

つまりIPX8と表記されている場合、この製品は防水性能に関しては最高の基準値である「8」を満たしている一方で、防塵性能はまったく保証していないということです。

逆に「IP6X」と記載されているものは、防塵性能が最高の基準である「6」を満たしていますが、防水性能に関しては保証していません。

一点認識しておきたいのは、それぞれの表記が「X」になっているからといって、防水・防塵性能が皆無という意味ではありません。性能として公式に保証していないというだけで、一定の環境下では使用が可能な場合もあります。なおこれらの保護等級は表記から、IPコードとも呼ばれています。

防水等級の一覧

防水等級には下記のものがあります。

保護等級IPコード保護の内容
0級IPX0保護されていない状態
1級IPX1垂直に落ちてくる水滴によって有害な影響を受けない
2級IPX2垂直から15度の角度の範囲で落ちてくる水滴によって有害な影響を受けない
3級IPX3垂直から60度の角度の範囲で落ちてくる水滴によって有害な影響を受けない
4級IPX4あらゆる方向から水の飛沫を受けても有害な影響を受けない
5級IPX5あらゆる方向から水の噴流を受けても有害な影響を受けない
6級IPX6あらゆる方向から激しい水の噴流を受けても有害な影響を受けない
7級IPX7一時的に一定の水圧で水没しても内部に浸水しない
8級IPX8潜水状態で使用しても内部に浸水しない

屋外でトランシーバーを利用する場合、心配なのが降雨です。雨の程度にもよりますが、必要な保護等級としてはIPX4程度を見ておけばよいでしょう。

IPX4程度の防水能力があれば、小雨の場合でも利用を継続できます。しかし激しい風雨やどしゃ降りの天候が見込まれるような場合は、IPX5〜6の機器を用意しておいた方が安心です。

防塵等級の一覧

防塵等級は下記の6段階で構成されています。

保護等級IPコード保護の内容
0級IP0X保護されていない状態
1級IP1X直径50mm以上の固形物が内部に侵入しない
2級IP2X直径12.5mm以上の固形物が内部に侵入しない
3級IP3X直径2.5mm以上の固形物が内部に侵入しない
4級IP4X直径1.0mm以上の固形物が内部に侵入しない
5級IP5X有害な影響を引き起こすほどの粉塵が内部に侵入しない
6級IP6X粉塵が内部に侵入しない

防塵等級の場合、特定の大きさの物体の侵入を防げるかどうかで等級が決まります。上記の表では数値で表現されているためやや分かりづらいですが、IP4では保護される対象はおよそワイヤーと同サイズです。

それよりも小さい粉塵の場合は内部に侵入してしまうため、砂ぼこりなどが激しい場所で使用する場合は、IP5〜IP6程度の保護等級が必要です。

防水トランシーバーを使用する際の注意点

防水トランシーバーを利用する場合は、機器の保証する保護等級をもとに、必要な防水性能を満たす機器を選んでおけば問題はありません。

しかし保護等級にはその数値を示すにあたってのいくつかの前提があります。防水トランシーバーを選ぶ場合には、それらの前提を踏まえておく必要があります。

極端に異なる条件下では防水性能が低下する恐れがある

保護等級は、機器が一定の環境下にあることが前提です。防水性能の場合は一定の気温や気圧のもとで基準を満たすかが条件となっているため、極端に異なる条件下で使用した場合、本来の防水性能が発揮できない場合があります。

例として挙げられるのが、極端に気温が高い場合や、逆に低い場合です。気温の変化は材質の膨張や縮小をもたらすため、場合によっては本来の機能性が維持できなくなります。さらには気圧の大きく異なる環境下であれば、密閉性が低下するなどのケースが考えられます。

また防水試験は真水を前提としています。海水や汚水、また水に薬剤が混入しているようなケースでは、本来の防水性能が発揮できない可能性があります。

真水以外がかかるとそれらが内部へ侵入してしまうケースは十分にありえます。利用前には、使用する環境がどのような状況にあるのかについてよく確認しておきましょう。

必要以上に機器を水に濡らさない

また大切なのは、必要以上に機器を水に濡らさないことです。防水性能は材質や防水処理の劣化によって下がっていきます。とくに使い方によっては劣化の速度を早めてしまうため、みだりに水に濡らす行為は望ましくありません。

防水性能はあくまで安全のための保険と考え、水に濡れることがあらかじめ分かっている場合は、防水ケースを用意して万全に対策していきましょう。

防水トランシーバーを選ぶ際のポイント

最近では防水機能をもったトランシーバーの数も増えており、機種の選定も迷ってしまいがちです。そこでここでは、防水トランシーバーを選ぶ場合にチェックすべきポイントについて解説します。

使用用途に合った保護等級のものを選ぶ

防水トランシーバーを選ぶ際は、用途に合った保護等級の機器を選ぶことが大切です。

水に濡れることが前提となる場合には、誤った保護等級のものを用意すると機器の故障などにつながってしまいます。

どの程度水に濡れるのか、どのくらいの勢いで水がかかりうるのかなどをイメージして、必要な保護等級のものを揃えましょう。

技適マークがあるか確認する

「技適マーク」とは、総務省の「技術基準適合証明」に認可されたことを示すマークです。この試験をクリアした機器には必ず貼付されており、逆に技適マークがない機器は国内での技術基準適合証明試験をしていない可能性があります。

技適の認可は法律で義務付けられており、技適に通っていない機器で電波を発すると、電波法違反になります。 価格が安い海外製品はこの技適マークがないものがあるため、購入の際には注意しましょう。

電源タイプを確認する

トランシーバーには、乾電池式のものと充電式のものの2種類があります。乾電池式のトランシーバーはコンセントを必要としないため災害時に強く、電池さえあれば充電なしで使用できるのが特徴です。

一方の充電式はUSBポートやコンセントから充電が可能で、繰り返し充電できます。電池交換がないため、気軽に使いやすいという特徴があります。

またトランシーバーのなかには、乾電池式と充電式を併用するタイプの製品もあり、それぞれのメリットを取り入れたい場合にはおすすめです。

対応チャンネルを確認する

トランシーバーは製品ごとに通話用の対応チャンネルがいくつか設定されており、通話したいグループで共通のチャンネルに合わせて使用します。

あらかじめ設定されているチャンネルは機種によって異なりますが、チャンネルさえ合っていればほかのメーカーの機種からでも無線通話に参加できます。機種間によっては互換性のないものもあるため注意が必要です。

メーカーを確認する

トランシーバーはメーカーごとに個性があります。そのため、必要な仕様やタイプに力を入れているメーカーを選ぶのがおすすめです。

全モデルに防水仕様を施しているメーカーや特定小電力トランシーバーに強みのあるところ、高品質なモデルを中心に展開しているメーカーなど特徴が分かれています。購入前にあらかじめチェックしておくとよいでしょう。

通信距離を確認する

トランシーバーにはモデルごとに通信距離が異なります。利用目的に合わせた製品を選ぶようにしましょう。

なお一般的な特定小電力トランシーバーの場合、通信距離は200m前後とされています。通信距離の長いもののなかには、500m前後まで通信できる製品もありますが、それ以上離れる場合には中継機の設置などが必要になります。

トランシーバーと同じく、中継器にも防水・防塵対応の製品があるので必要に応じて選びましょう。

業務用無線機であれば、1kmから5km前後、建物では30階建てをカバーする製品もございます。

まとめ

トランシーバーは屋外で利用する場面も多く、室内と比べると天候に関するアクシデントに遭遇しやすいのが難点です。利用にあたっては、必要な防水・防塵性能をもった製品を選びましょう。

また防水トランシーバーを利用する場合は、防水性能を表す保護等級に関する理解は必須です。

誤った等級の製品を購入すると、利用環境によっては故障につながってしまうため、購入前にはぜひ本記事を参考にして防水等級をご確認ください。